「源氏物語 行幸」(紫式部)

鬚黒大将の印象は散々です

「源氏物語 行幸」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

冷泉帝の大原のへの行幸があり、
六条院の女たちは
その見物に出かける。
源氏そっくりの冷泉院の
美しい容貌に、
玉鬘は心を奪われ、
宮仕えを勧める
源氏の意向に傾いていく。
源氏はそれに先立ち、
玉鬘の成人式・裳着を
計画するが…。

源氏物語第二十九帖「行幸」。
「玉鬘」から始まる「玉鬘十帖」も
いよいよ終盤にさしかかり、
本帖では玉鬘の正式な成人式である
「裳着」が行われる経緯が
描かれていきます。

本帖の読みどころ①
鬚黒大将の散々な印象

読みどころの一つ目は、
この後の二帖「藤袴」「真木柱」、
つまり「玉鬘十帖」の
クライマックスとなる部分の主要人物を
主人公・玉鬘がその目で見て、
印象を語るところにあります。

玉鬘は源氏の美貌を引き継いでいる
冷泉院の美しさに心を奪われ、
宮仕えを意識し始めるのです。
玉鬘22歳に対して、
源氏36歳、冷泉院18歳。
養父・源氏の誘いにはときめかなくとも、
冷泉院であれば若さの上で
釣り合うのです。
美貌の若き天皇。
玉鬘でなくとも、若い女性であれば
誰しもが恋い焦がれる存在なのです。

一方、このあと玉鬘を強引に奪い取る
鬚黒大将の印象は散々です。
「色黒く鬚がちに見えて、
 いと心づきなし」

(色黒で鬚が濃く、好きになれない)
野性味あふれる男性は
好かれなかったのでしょう。
後の戦国の世では
武将たちが例外なくその顔に鬚を
たたえていたことを考え合わせると、
平安の時代は平成・令和と、
女性による男性観が
似ているのかもしれません。

本帖の読みどころ②
源氏と内大臣の和解

玉鬘が実は内大臣の娘であることを、
源氏はいよいよ内大臣に
告げることを決意します。
若い時分は好敵手であり、
親友のような交際を
続けていた二人ですが、
お互いに権力の座についてからは
当然疎遠になっていたのです。
加えて夕霧と雲居雁の
一件がありましたので、
なおのことでした。
大宮の仲介で
久しぶりに顔を合わせた二人は、
「雨夜の品定め」の
思い出話などにふけるのです。

本帖の読みどころ③
道化役二人の再登場

作者・紫式部は、「玉鬘十帖」では
雰囲気をあまり重くしないように
心がけている節が観られます。
ここでまたしても道化役の二人・
末摘花と近江の君の再登場です。
末摘花は玉鬘の裳着の折に、
例によって
場違いの贈り物と和歌を献上し、
源氏を赤面させます。
近江の君は玉鬘の宮仕えに嫉妬し、
内大臣に不満を打ち明けるのですが、
笑いものにされて終わってしまいます。

「玉鬘十帖」以降の主要登場人物の一人、
柏木もこのあたりから
名前が登場しています。
読みどころ豊富な本帖「行幸」。
玉鬘から目が離せません。

※「ひげ」には「鬚」「髭」「髯」の
 三つの漢字がありました。
 それぞれ「あごひげ」
 「くちひげ」(鼻の下)
 「ほおひげ」なのだそうです。
 字から判断すると鬚黒大将は
 「あごひげ」なのですが、
 「あごひげ」だけだったのか、
 それも含めて
 「くちひげ」「ほおひげ」も
 あったのか、よくわかりません。

(2020.8.1)

ritomaruさんによる写真ACからの写真

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